𝒸𝒽𝒶𝓇𝒶𝒸𝓉ℯ𝓇 𝓈𝓉ℴ𝓇𝓎 "ℬℯ𝓁𝓁ℯ "

シャキシャキと髪を切る音、ドライヤーの音、トリートメントやワックスの香り

女性も男性も彼の手によって生まれ変わっていく

私のご主人様は有名なカリスマ美容師だった

" …はい、出来たわよ!…こんな感じでどうかしら？"

そう言ってご主人様はお客さんの髪型を鏡に写す

"わぁ、とっても素敵！さすがカリスマ美容師さん!"

" もう！そんなこと言ったって何も出ないんだからね！"

彼は嬉しそうに言う

私と彼が出会ったのは、彼がまだ10代の頃だった

" お前、なんで男なのに髪なんか結んでの？変なやつ！"

" ほんとほんと！女物の物つけたりして気持ちわりー "

" お前本当は女なんじゃねーの？"

そう言って彼を囲んで笑いものにする少年達

"ぼ、僕はそんなんじゃ…"

"はぁ？何言ってるか聞こえねーんだけど？"

1人の少年が彼を突き飛ばした

"うわっ"

転ぶ___そう思ったが、1人の男性が少年を支えていた

"君達一体何をしているんだ？これはいじめなんじゃないか？…彼が君達に何をした？彼が髪を結ったりおしゃれをするのは彼の自由だろう"

その男性は厳しい声で少年達に言った

"…行こうぜ "

そう言って少年達は駆け足でどこかへ行ってしまった

"あの、ありがとうございました "

彼は深々と男性にお辞儀をした

" いや、気にする事はない。

…君は髪を結ったり、お洒落が好きなのかい？ "

男性は彼に聞いた

" …はい！とっても！僕は将来沢山の人を髪型やお洒落で幸せにしたいんです！ "

彼は満面の笑みで言った

それを見ていた男性は私の入った箱を彼に渡した

"これは君へのプレゼントだ。君のパートナーとして君を支えてくれるだろう"

"あの、これは…？……あれ？おじさん？"

彼が顔を上げるとそこにはその男性は既にそこにはいなかった。彼は箱を開けると

" なんて綺麗なドールなんだろう…！君が僕のパートナー…！これから宜しくね"

彼はそう言い、優しく微笑んで私を家へと連れて帰った

それから私は『ベル』という名前をつけてもらった

それから彼がカリスマ美容師になるまでずっとずっと傍にいた

辛い時も悩んだ時も嬉しい時もずっと傍にいた

彼は私の髪を梳かしながら沢山お話をしてくれるのが、幸せだった

でもそんな幸せの中、不幸は突然襲ってきた

彼が交通事故で病院に運ばれた

一命は取り留めたものの利き腕に麻痺が残ってしまった

" どうして動かないんだよ…？ここで…終わりなの…？ "

彼は呆然と動かない手を見つめた

涙が頬を伝う

胸が張り裂けそうだった

"どうか…彼の…彼の夢がもう一度叶いますように…"